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高校受験対策として「英文解釈」の練習は必要か?

【 そもそも「英文解釈」とは何か 】

大学受験をめざしている方なら「英文解釈」という言葉をよく耳にするでしょうが、高校受験をめざす中学生の方にとっては、あまりなじみのない言葉だと思います。この「英文解釈」というのは、意外な意味を持つ単語やイディオムまたは難易度の高い文法や構文に関する知識などが盛り込まれていて、その構造や意味を把握しづらい英文を正確に理解して和訳する作業をいい、「英文精読」とも言います。

【 高校入試にも「英文解釈」が必要な文章が出題されるか?】

巷では、「高校入試の問題は大学入試と異なり、基礎的な語彙力や文法力があればすんなりと読める比較的平易な文章しか出題されないので、いわゆる「英文解釈」のために特別な練習をする必要はない」という声もあります。

 

しかし、それは、実際の高校入試英語の長文問題をきちんと分析していない人による希望的観測でしかなく、実際には、大学入試問題に劣らないほど難解な英文が文章の中に登場するケースがしばしばあり、とくに難関高校の入試では、そういった難解な英文を正確に解釈できるかどうかで合否が決まるというのが実情なんです。

 

それゆえ、大学受験と同様に、高校受験においても「英文解釈」のための練習は必須になります。

【 実際の入試問題を検証 】

論より証拠。まずは、有名私立高校の実際の入試問題を見てみましょう。

次の英文は日本在住の外国人の視点から書かれた文章である。本文を読み、設問に答えなさい。

 

Entering Japanese Junior high and high schools can be a confusing and anxious time, as school takes up more of our children's time and attention. As foreign parents, we may worry that  we are "losing" them to Japanese society. Will there still be time for studying their parents' language or for taking trips to our home countries ? One of the biggest reasons for these anxieties is school clubs - kurabu katsudo or bukatsu.

 

以下省略

 

※2023年度 早稲田大学高等学院 入試問題英語より抜粋

すんなりと読める」と言うにはほど遠いことがよくわかります。しかも、これほどの難しい文章が長文のトップに置かれると、受験生としてはこの時点でかなり心が折れるでしょう。まるで「英語の力の無い受験生は、わが校へは入学してほしくないので、ここで諦めてさっさと帰ってください」と言わんばかりの文章ですね。

 

こういった文章を正確にきちんと理解して和訳する作業が「英文解釈」であって、前述のように、それがちゃんとできるか否かでその高校への合否が決まってしまうわけです。

【 英文解釈の力をどうやって身につけるか 】

では、英文解釈の力をどうって身につけたらよいか。

 

結論から言えば、とにかく練習を重ねる以外にはありません。前掲の入試問題と同じくらいの難易度を持つ適切な文章を精読して、自分の解釈が合っていたかどうかをチェックする、というトレーニングを日々繰り返すしかないのです。具体的には、まずは辞書や参考書などを一切使わずに自力で設問を解きます。次に辞書や参考書などを総動員して自分なりの完全解を作ります。その後で解説や正解を読んで答え合わせをします。

 

慣れないうちは、大変苦痛を伴う作業だと感じるかもしれません。しかし、だんだん慣れてくると、これが結構楽しくなってくるものです。単語や熟語の知識を総動員しながら、各文に盛り込まれている文法や構文の存在を推理したり、ある指示語が具体的にどの語句を指しているかについて複数の仮説を立てるなどして、最終的に文章全体が論理的に一貫性を保つように、あれこれと頭をひねりながら解釈とその修正を繰り返していきます。まるで暗号や象形文字でも解読するような興奮を覚えます。私に言わせれば、「英文解釈」こそ、まさに英語の勉強の醍醐味で、こんな楽しいことをやらないなんて損です。

 

ただ困ったことに、そのための高校入試用のよい教材が日本ではほとんどありません。そこで、当サイトでは、ブログの中で随時英文解釈用のやや難しめの文章とその解説を無料で公開しています(英文解釈特訓 参照)。ぜひご利用ください。

【 前掲入試問題の文章の解釈 】

さて、せっかくなので、前掲入試問題の文章をさっそく解釈してみましょう。

 

※まずは、辞書や参考書などを一切使わずに自力で設問を解いてください。次に辞書や参考書などを総動員して自分なりの完全解を作ってください。その後で当サイトによる解説や正解を読んで答え合わせをてください。また、自分の解答は必ずノート等に実際に書くようにしてください。

【 第1文の解釈 】

Entering Japanese junior high and high schools can be a confusing and anxious time, as school takes up more of our children's time and attention.

enter = 入る ing は動名詞で「~すること」

junior high and high schools = junior high schools and high schools = 中学や高校

 

can は「できる」という「能力」の用法の他に、「あり得る」という「可能性」の用法があり、この文の can が「可能性」の用法です。

 

confusing = 混乱させるような

anxious = 不安な、心配な

 

as にはいろんな用法があります。詳細は こちら を参照してください。この場合は「~ので」の意味で、その後ろに理由が書かれています。

 

take up ~ = ~を占める

attention = 注意、関心

 

more と比較級になっているのに、お決まりの 「 than ~」という部分がどこにもないですよね。こいうときは、何と何が比較されているかを自分の頭で考える必要があります。さもないと正確な和訳ができないからです。ここでは、

 

子供たちの時間と関心の中で学校が占める部分>子供たちの時間と関心の中で学校以外のものが占める部分

 

ということになります。つまり、as の後ろは、school takes up more of our children's time and attention than the others do. と補って解釈して、「他のものよりも学校が占める部分が多い」という意味になります。

 

以上より、直訳すると、「日本の中学や高校に入ることは、混乱や不安の時間となり得る。というのは、学校が他のものよりも、私たちの子供たちの時間と関心を多くを占めてしまうからだ。」となります。

 

あとは、無生物主語の文であることに注意してきちんと訳すと、「日本の中学や高校に入ると、混乱したり不安な気持ちになったりする時期を迎えることになり得る。というのは、子供たちの時間と関心は、何よりも学校によって大きく占められてしまうからだ。」となります。 

【 第2文の解釈 】

As foreign parents, we may worry that we are "losing" them to Japanese society.

トップの as は「として」の意味。

 

may は「してもよい」の他に「かもしれない」の意味があり、この場合が「かもしれない」の意味。ただし、「かもしれない」と訳しておかしくなってしまうときは、「~だろう」と訳すとたいていはうまくいくこともぜひ知っておきましょう。

 

lose A to B = AをBに失う AをBに奪われる

 

"losing" の直後の them は第1文の our children's time and attention  でなく、our children だけを指しています。その理由は、are losing の主語が「子供たち」ではなく we(=親たち) になっているからです。つまり、時間や関心を失うのは子供たち自身のはずであって、親たちがそれらを失うわけではないということです。そうすると、親たちが失うのは子供たちそのものということになるわけで、この一文にこの文章の深刻さが最も如実に表れています。つまり、「自分の子供たちを日本の社会に奪われてしまうのではないか」という不安がこの文章のテーマなのです。losingにわざわざ " " をつけて強調しているのはそのためだと解釈できます。

 

ただし、are losing と進行形になっている点に注意が必要です。第4回 でも説明したように、これは通常の「~している」ではなく「~しかけている」と訳すべきケースになります。その理由は、上の第1文と下の第3文から判断して、親たちは自分の子供たちをまだ完全に失ったわけではないことがわかるからです(常識的に考えても完全に失ってしまうわけはありません)。

 

よって、第2文をきちんと訳すと、「外国人の親として、わが子らが日本の社会に"奪われかけている"と思うと、我々は気が気ではないだろう。」となります。

【 第3文の解釈 】

Will there still be time for studying their parents' language or for taking trips to our home countries ? 

still =まだ

take trips = 旅行をする

 

きちんと訳すと、「親の母国語の勉強をしたり、母国を旅行したりする時間がこれからまだあるだろうか。」となります。

【 第4文の解釈 】

One of the biggest reasons for these anxieties is school clubs - kurabu katsudo or bukatsu.

One から anxcietiesまでが主語になっています。

 

reason = 理由

or = 「あるいは言い換えると」「すなわち」

 

きちんと訳すと、「これらの不安の最も大きな理由の一つは、学校のクラブ( クラブ活動すなわち部活)だ。

【 全訳 】

日本の中学や高校に入ると、混乱したり不安な気持ちになったりする時期を迎えることになり得る。というのは、子供たちの時間と関心は、何よりも学校によって大きく占められてしまうからだ。外国人の親として、わが子らが日本の社会に"奪われかけている"と思うと、我々は気が気ではないだろう。親の母国語の勉強をしたり、母国を旅行したりする時間がこれからまだあるだろうか。これらの不安の最も大きな理由の一つは、学校のクラブ ( クラブ活動すなわち部活)だ。